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札幌地方裁判所岩見沢支部 昭和29年(ワ)175号 判決

原告 松本茂

被告 砂川炭鉱労働組合

主文

原告が被告組合の組合員であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(双方の求める裁判)

原告は、主文と同旨の判決を求め、被告は、原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めた。

(請求の原因)

第一、原告は、昭和一一年五月二一日から三井鉱山株式会社砂川鉱業所の従業員であつて、その従業員をもつて組織する被告組合の組合員である。

第二、しかるところ、原告は、昭和二八年二月一七日施行の上砂川町議会議員の選挙にあたり、被告組合の推せんを受け立候補、当選した。

第三、しかして、被告組合は、選挙終了後、町政に組合の意向を反映せしむべく、原告ら組合出身議員全員一一名と組合執行委員五名とをもつて、組合の外局として、政治局(頭初は町政対策委員会と称した)なるものを組織し、同年二月二二日原告も出席のうえ、その第一回会議を開催し、(一)、議会活動については組合機関から拘束されない、(二)、政治局の決定は全員一致して同一行動をもつて議会に反映せしめる、(三)、政治局会議の運営は局構成員の全員一致の合議制をもつて決定する旨確認した。

第四、かくして、同年三月から上砂川町議会が開かれ、二八年度町予算審議が討議されることとなつた。ところが、上砂川町当局においては、従来、前記会社の砂川鉱業所に対する鉱産税の賦課につき、地方税法第五二〇条で許容されている最高の百分の一、二(これによる税収入の占める率は町歳入予算の約四分の一)の税率によつていたが、会社は、経営状態の不良および右税率が他の市町村より高率であることなどを理由として、町当局に対し、その賦課税率を右法条所定の標準税率である百分の一にまで引き下げるよう陳情していた。しかし、町当局としては、右の陳情にもかかわらず、町議会に提出する予算原案としては百分の一、二の税率を固執していた。

第五、そこで、政治局は、この問題に対する態度を決定するため、同年四月一二日政治局会議を開催し、原告ほか三名を除く局員が出席し、出席局員の全員一致をもつて、百分の一、二の町原案を支持する旨の決定をした。原告は、当日、あいにく、町議会財政委員会が開かれその委員長としてこれに出席したため、政治局会議には出席できえなかつたところ、翌一三日、当時の被告組合の副組合長菅野司郎から、右政治局決定に従うよう同意を求められた。しかし、原告は、町の財政全般および会社の現況などからみて町原案が妥当でない旨を強調して、政治局決定に従うことを明確に拒否した。

第六、かくして、四月一七日町議会の本会議が開かれ、会社に対する鉱産税の賦課税率につき採決したところ、町原案の税率百分の一、二を百分の一、一とする修正案が政治局員である議員らの反対投票にもかかわらず、会社職員出身議員、市街地出身議員および原告の賛成投票により、一五対一三票で可決された。

第七、しかるところ、被告組合は、原告の右修正案賛成投票を目して、右政治局決定に違反しているとなし、これを理由に、同年六月二九日の第九一回代議員大会で原告に制裁を科することを議決し、組合規約によつて、賞罰委員会に附議したところ、同委員会は、原告を組合規約第六三条第一号(組合規約または決議に違反した場合)および第四号(組合員たる品位を傷けた者)にあたるとして、除名することを議決したが、これにつき、同年七月一七日の第九二回代議員大会で組合規約による出席者の四分の三以上の賛成がえられなかつたので、賞罰委員会の再審査に附したところ、同委員会において再度除名の議決がなされ、これを、同二九年七月三〇日の第一一二回代議員大会にはかつたところ、今度は除名が確認された。これに対し、原告から異議の申立をしたところ、同年八月一一日の第一一三回代議員大会において、この異議は棄却され除名が確認され、これに基き被告組合は、同月一二日原告に対し、組合から除名する旨通知してきた。

第八、しかしながら、被告組合の原告に対する右除名処分は、左の理由によつて無効である。

(1)、まず第一に、政治局の確認事項として「政治局の決定は全員一致して同一行動をもつて議会に反映せしめる」とあるけれども、だからといつて、かりに、政治局が原告の町議会における行動を指図し制約しようとする決議をしたとしても、それは公務員たる特別の職責をもつ町議会議員たる原告を拘束することはできない。

なんとなれば、憲法第一五条第二項は「すべて公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない」と規定して、公務員が一部の階級的、職能的、地域的な利害の代表者であつてはならないことを定めている。町議会議員が右にいうところの公務員であることは、地方公務員法第三条の規定をまつまでもなく自明の理である。したがつて、原告は、たとえ組合選出の議員であつても、組合の利益の代表機関ではなく全町民の代表の一人であるから、町議会議員としては、組合から独立して全町民のために良心に従つて自由に行動しなければならない。旧町村制第五四条第一項は「議員は選挙人の指示又は委嘱を受くべからず」と規定して右の趣旨を明らかにしていたが、現行地方自治法は、当然のこととしてこれを削除したまでのことである。

さればこそ、政治局の確認事項として「議会活動については組合機関から拘束されない」旨確認されているのである。このことは、いやしくも議会活動である限り、政治局員は自己が参加して決定した政治局決定によつても拘束されない趣旨である。

したがつて、政治局が「政治局の決定は全員一致して同一行動をもつて議会に反映せしめる」と定めてみても、それ自体原告に対しては、なんらの拘束力をもつものではないから、原告の前記修正案賛成投票を目して政治局決定違反となし、これを理由とする被告組合の除名は無効である。

(2)、かりにしからずとしても、政治局においては、その確認事項として「政治局会議の運営は局構成員の全員一致の合議制をもつて決定する」旨確認している。このことは、政治局員が、確認事項にいう「政治局の決定を全員一致して議会に反映せしめる」ためには、どうしても、かように、政治局会議の運営が「局構成員の全員一致」の合議制によつてなされなければならない。もし、「出席局員の全員一致」の合議制で足るとするならば、小数専制の非民主的事態が発生する場合がありうる。しかのみならず、政治局において右の確認がなされる際、原告は、特に会議運営の点にふれ、会議の運営は局構成員の全員一致によるべく、多数決で他の局員を拘束、運営することには絶対反対である旨強硬申し入れした結果かく確認されたものである。

しかるに、町原案を支持する旨を決定した右四月一二日の政治局会議には、原告は町議会財政委員長という公務のためやむなく欠席し、その他にも局員三名の欠席者があつたし、しかも、さきにも述べたとおり、原告は、右決定に対し反対の理由を述べこれに従うことを明確に拒否しているから、この政治局決定は不成立に終つているものである。したがつて、原告がこれに従わなかつたからといつて、なんら政治局決定に違反したこととはならない。

(3)、被告組合の規約第六三条第一号によると、組合員が組合規約または組合決議に違反した場合には制裁を受けることになつているが、政治局決定は、組合規約第一一条にいわゆる組合機関たる組合員総会、代議員大会、執行委員会の決議ではないから、組合決議とはいい難く、したがつて、これに違反したからとて組合決議に違反したこととはならない。また、政治局決定が組合規約でないことは勿論、政治局規定第三条第一号に「政治局員は政治局の決定を把握し、全員結束して議会その他に反映する」とあるけれども、政治局規定なるものは、政治局の単なる申し合わせであつて組合規約ではないから、これに違反したからとて組合規約に違反したことにもならない。したがつて、かりに、原告の修正案賛成投票が政治局決定に違反しているとしても、組合規約第六三条第一号該当を理由とする被告組合の除名は無効である。

(4)、以上述べたところによつて明らかなように、原告がなした修正案賛成投票の所為は、組合規約第六三条第一号、第四号所定の制裁事由となるものではないが、かりにいずれもその理由がないとしても、被告組合の除名は、なお左の理由により無効である。

すなわち、被告組合と会社との間には労働協約第一一条により、ユニオン・ショップ協定が結ばれており、組合員が組合を除名された場合は、その組合員は会社を解雇されることとなる。現に原告は、昭和二九年八月一三日会社から解雇通告を受けている。かように、ユニオン・ショップ協定の存する場合の除名は、ただちに組合員の生活手段を奪取するものであつて、まさに刑罰における死刑にあたる極刑である。したがつて、かような場合の除名処分は、被除名者の行為がいちじるしく反組合的なものであつて、組合に大きな損害を与えたとか、その者が組合に止まることによつて組合が存立しえないというような事態が存在し、一般社会通念に照らして除名もまたやむをえないというような場合に限らるべきものである。

しかるに、原告は、町議会議員として、自己がもつとも妥当と信ずる鉱産税の税率百分の一、一を主張して、修正案に賛成しただけのものであつて、なんら組合に対し損害を与えたものでもなければ、組合の存立を危からしめたものでもない。鉱産税を適正な税率にまで引き下げることは、とりも直さず、会社およびその従業員たる組合員の負担を軽減することにもなる。また、税率を引き下げたからといつて、その差額は町支出予算の削減、不用剰費の節約という形になつて現われ、一般町民(組合員を含め)にはなんら特別の負担となるものではない。

したがつて、右の除名処分は、憲法第一三条に違反し、個人を無視し原告の基本的人権を侵害するものであつて、まさに制裁権の濫用に基くものというべく、無効である。

第九、以上のように、被告組合のなした原告に対する除名処分は、いずれの観点からするも無効であるのに、被告組合は、これを有効視し、原告が被告組合の組合員であることを争つているから、その確認を求めるため本訴におよんだ。

(被告の答弁)

原告の主張事実のうち、第一ないし第七については、原告が現在被告組合の組合員であること、政治局会議の運営は「局構成員の全員一致」による旨確認されていたこと、原告が四月一二日の政治局会議に出席不可能であつたこと、原告がこの会議決定に従うことを拒否したことは、いずれも否認し、その余は全部これを認める。第八については、被告組合と会社との間にユニオン・ショップ協定が結ばれていること、原告が解雇通告を受けていることはこれを認める。なお、第八の各主張については、つぎのように反論する。

((1)の主張に対し)民主主義政治機構における国民代表の原理とは、議員が現実に部分社会の利害を主張したり、部分社会の利害を主張する団体の構成員として統制を受けたりすることをも禁ずる趣旨ではない。「議会活動については組合機関から拘束されない」旨の確認事項の趣旨は、政治局が組合規約「機関」の章にいうところの組合員総会、代議員大会、執行委員会の決定によつては拘束されない趣旨であつて、政治局の決定に拘束されない趣旨ではない。しかして、政治局が局員を拘束する決定をなしうることは、政治局の確認事項に「政治局の決定は全員一致して同一行動をもつて議会に反映せしめる」とあり、また、組合規約第四七条に基く政治局規定第三条第一号に「政治局員は政治局の決定を把握し全員結束して議会その他に反映する」とあることによつて明らかである。したがつて、この点についての原告の主張は理由がない。

((2)の主張に対し)政治局会議の運営については、すでに、政治局の第一回会議において、「出席局員の全員一致」の合議制によるべき旨確認されているのである。決して、原告が主張するように、「局構成員の全員一致」の合議制によるべく確認されているのではない。しかし、かりに、「局構成員の全員一致」の合議制によるべきものとしても、四月一二日の政治局会議においては、出席者は全員一致して町原案を支持しておるし、原告は武石局員に対し当日の会議の決定に従うべき旨予め承諾していたし、他の三名の欠席局員はその翌日ないし翌々日いずれもこの決定に同意しているから、結局、問題の政治局決定は、局構成員の全員一致の合議制に基くものというべく、有効に成立している。この点についての原告の主張も理由がない。

((3)の主張に対し)組合規約をみると、その第四七条に「政治局の規定は別に定める」とあり、この条項に基き、政治局規定が定められており、その第三条第一号には「政治局員は政治局の決定を把握し全員結束して議会その他に反映する」とあるから、政治局員たる組合員が政治局決定に違反することは、この局規定違反、すなわち、組合規約違反となる。また、組合規約第四六条には「組合に政治局を設置する」とあるから、政治局は組合の機関であり、政治局員たる組合員が政治局決定に違反することは、組合決議に違反したことともなる。この点についても原告の主張は理由がない。

((4)の主張に対し)原告は、かつて被告組合の副組合長の地位にあり、また現に組合推せん議員たる地位にもあるものであるから、一般組合員に率先して組合の方針に従つて行動すべき責任と能力があるにもかかわらず、本違反行為に出たことは、まことに遺憾であつて、その情状において甚だ重いものがあるといわねばならない。さればこそ、被告組合は、原告の政治局決定違反の所為(修正案賛成投票の所為)は一面組合規約ならびに組合決議違反(組合規約第六三条第一号)にあたるのみならず、同時にまた、組合員たるの品位を傷けたもの(組合規約第六三条第四号)にもあたるとして原告を除名したのであつて、その情状において本除名はまことに当然である。この点についても原告の主張は理由がない。

(原告の答弁)

被告の主張事実のうち、四月一二日の政治局会議の決定に従うべき旨原告が予め承諾していた事実を否認し、他の三名の会議欠席者が会議の翌日ないし翌々日この会議決定に同意している事実はこれを認める。

(証拠)

〈省略〉

理由

原告主張のとおり、原告が三井鉱山株式会社砂川鉱業所の従業員であつて除名当時被告組合(同会社の従業員をもつて組織する)の組合員であつたこと、原告が上砂川町議会議員選挙に被告組合の推せんを受けて立候補、当選したこと、選挙後被告組合において町政に組合の意向を反映せしむべく原告ら組合出身町議会議員と組合執行委員とをもつて政治局なるものを組織したこと、その後町議会が開かれ右会社に賦課する鉱産税率についての審議がなされることとなつたが町当局としては会社からの税率引き下げの陳情にもかかわらず現行税率を固執していたこと、そこで政治局はこの問題に対する態度を決定するため政治局会議を開いたところ現行税率を固執する町原案を支持する旨の決定がなされたこと、しかるに町議会においては政治局員である議員らの反対投票にもかかわらず原告らの賛成投票により修正案が可決されたこと、よつて被告組合が原告の右修正案賛成投票は右政治局決定に違反しこの違反は組合規約第六三条第一号および第四号の制裁事由にあたるとなし原告を除名したことは当事者間に争いがない。

しかるところ、原告は右除名は無効であると主張し、被告は有効であると主張するから、以下原告の主張するところ(請求原因第八)にしたがつて判断する。

一、(議会活動と拘束)

まず、原告は、憲法第一五条第二項および旧町村制第五四条第一項を根拠として、町議会議員とても公務員であつて、一部の奉仕者ではなく全体の奉仕者であるから、たとえ、政治局といえども、町議会議員たる原告の町議会における行動を制約し拘束することはできないと主張する。

勿論、憲法第一五条第二項は「すべて公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない」と規定しているけれどもその意とするところは、一般公務員に対し、常に国民全体の利益を念頭において行動すべきであるという心構えを示したにとどまり、被告も主張するように、町議会議員たる原告のごとき、いわゆる政治的職員たる公務員が、その所属する政党、階級、団体などの政策や主張に従つて行動することをも禁ずる趣旨ではないと解する。なんとなれば、この場合、その政治的職員は、それぞれの政策や主張を通じて全体に奉仕しようとしているとみるべきであるからである。また旧町村制第五四条第一項は「議員は選挙人の指示又は委嘱を受くべからず」と規定しているけれども、それは、同条第二項の「議員は会議中無礼の語を用い又は他人の身上に渉り言論することを得ず」との条項と相まつて、もつぱら、議員の自由意思を尊重し、かつ、品位を保持するための、いわば道徳的規定であつて他意はないと解する。

しかして、自由を生命とする議会活動においても、自ら求めて拘束を受けること、すなわち、自己拘束を受けることは許されうるものと解しうるところ、本件においては、政治局の確認事項として「政治局の決定は全員一致して同一行動をもつて議会に反映せしめる」旨、原告自らも参加決定、確認されおることは、当事者間に争いがないから、政治局は、その局員である原告の町議員活動を制約し拘束する決定をなしうるものといわねばならない。したがつてまた、後に認定するように、組合規約第四七条に基く政治局規定第三条第一号には「政治局員は政治局の決定を把握し全員結束して議会その他に反映する」とあり、かつ、原告ら政治局員は、組合に対し「組合規約に基く政治局の一員として行動する」旨確約しているから、原告のような組合員たる政治局員が、政治局決定に違反したときは、組合から政治局決定違反を理由に制裁を科せられても、やむをえないところといわねばならない。

なお、原告は、政治局の確認事項として「議会活動については組合機関から拘束されない」旨確認されているが、これは、いやしくも議会活動である限り、政治局員は、自己が参加決定した政治局決定によつても拘束されない趣旨である。したがつて、この点からも、政治局は原告の町議会活動を制約し拘束する決定をなしえないと主張する。なるほど、政治局の確認事項として「議会活動については組合機関から拘束されない」旨確認されおることは、当事者間に争いがないが、この確認事項の趣旨が、原告の主張するような趣旨であるとの点については、被告の争うところであり、しかも、原告の主張を認めるに足る証拠はなに一つない。

よつて、原告のこの点についての主張は理由がない。

二、(合議制と政治局決定の成立)

つぎに、原告は、政治局会議の運営については、政治局の確認事項として「局構成員の全員一致の合議制による」旨確認されおるところ、問題の政治局決定は、原告ほか三名の局員が欠席のままなされたものであるから、未成立であると主張する。

この点につき、被告は、右政治局決定が原告ほか三名の局員欠席のままなされたものであることは争わないが、政治局会議の運営については、「出席局員の全員一致の合議制による」旨確認されていたと抗争するから、按ずるに、原告の主張にそう甲第九、一一号証、証人水谷由松の証言は信用し難いし、他に原告の主張を認めるに足る証拠はないし、また被告の主張を認めるに足る証拠もない。かえつて、いずれもその成立に争いのない甲第八、一四、一五号証、乙第九号証に原告本人、被告代表者本人の各尋問の結果を綜合すると、政治局会議の運営については、単に「多数決によらないで全員一致の合議制による」とのみ確認されおるだけで、その「合議制」が「局構成員の全員一致」の合議制か、あるいは、「出席局員の全員一致」の合議制かは明確にされていないことが認めえられ、この認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、かような場合、右の「合議制」をいかに理解するかは、結局政治局なるものの性格、目的ならびに政治局会議運営についての当時の実例(先例)、会議事項の内容、その軽重の度合いなど諸般の事情を考慮し、個々の場合に具体的に妥当な解釈を抽出するよりほかはないと考える。よつて、これを本件につきみると、

(1)、右の政治局なるものは、組合の意向を町政に反映せしめる目的で、組合出身の町議会議員と組合執行委員とをもつて構成、発足したものであるところ、成立に争いのない甲第四号証に弁論の全趣旨を綜合すると、右政治局は、単なる研究機関たるにはとどまらないで、行動機関でもあることが認められる。

したがつて、局員相互の理解と協力を必要とするから、局員はできうる限り会議に自身出席すべく、もし欠席者があつた場合においては、出席局員の全員一致によつてことを決すべく、いやしくも多数決によつてことを決するがごときことは厳にこれをさくべきは勿論のこと、欠席者に対しては決議内容を通知し、その諒解、賛同を求め、もし求められた欠席者にして決議に賛同し難いときは、その理由を述べて態度を明確に表明し、表明された場合には、政治局としても、けん虚にこれをきき、必要あらばさらに審議を遂げるなど善処するの態度が望ましい。このことは、別に認定するように、政治局決定に違反した組合員たる政治局員は決定違反を理由に組合から制裁を受けることに思いをいたすとき、この点からも、要請される事柄である。したがつて、如何なる場合においても、また、如何に重大な案件についても、出席局員の全員一致で足るとする見解は妥当ではないし、さりとて、如何なる場合においても、また、如何に軽微な案件についても、局構成員の全員一致を必要とするとの見解も、これに従えば、遂には政治局の運営をなしえない場合の生ずることも考えられ、政治局の行動機関たるの性格に鑑み到底容認し難い。

(2)、しかして、甲第四号証に弁論の全趣旨を合せ考えると、被告組合は、前記町議会議員選挙にあたり、その選挙綱領(方針)として、町政の自主権確立・町民税の軽減・鉱産税、固定資産税の厳正な客体把握・支出は勤労所得者の幸福のためにの四綱領を決定しおることが認めえられる。しかるところ、問題の政治局会議の会議事項は、鉱産税の賦課税率を引き下ぐべきか否やについての問題であつたが、この問題は、後に認定するように、「鉱産税の厳正な客体把握」という右綱領と、その精神において密接かつ微妙な関係にある問題であるから、被告組合にとつては相当重要な案件であると同時に、原告ら町議会議員たる政治局員にとつても、その議員たるの使命に鑑み決して軽微な案件ではないといわねばならない。

(3)、しかしながら、問題の政治局決定が出席局員の全員一致によつてなされていること、原告を除く三名の欠席局員は決定の翌日ないし翌々日この決定に同意していること、原告に対しては決定の翌日その内容を通知して同意を求めていることは、いずれも当事者間に争いがない。

(4)、しかして、政治局が町議会議員一一名と執行委員五名計一六名をもつて構成されていることは当事者間に争いがないから、右政治局決定は、結局、局構成員全員一六名のうち原告一人だけを除き一五名の同意をえていることとなる。

(5)、しかるところ、原告は、右の「求同意」に対し、その理由を述べて決定に従うことを明確に拒否している旨主張し、被告はこれを争うから按ずるに、原告の主張にそう甲第七、九、一一、一五号証、乙第一四号証の二、原告本人尋問の結果は信用し難いし、他にこれを認めるに足る証拠はない。かえつて、甲第八号証、乙九号証に成立に争いのない乙第一四号証の二(後記認定に反する部分を除く)を綜合すると、原告は、右の「求同意」に対し、一応は反対の旨意見を述べてはいるが、この決定に従うことを明確には拒否せず、あいまいな態度であつたことが認めえられる。

(6)、さらにまた、甲第四号証に成立に争いのない乙第七号証を綜合すると、「鉱産税の厳正な客体把握」という右綱領のねらいとするところは、従来あまかつた鉱産税の課税客体の把握を厳正化することによつて、町財政収入の確保を期すると同時に、勤労所得者の税負担との不均衡を是正しようというにある。したがつて、この綱領は、政治局の会議事項である鉱産税の税率の問題とは、その精神において密接かつ微妙に相共通する関係にあるものといわねばならない。しかるところ、成立に争いのない甲第五号証弁論の全趣旨を綜合すると、原告は、この綱領に従つて議会活動をなすべき旨、すでに、町議会議員に立候補する頭初において、被告組合に対し確約しおることが認めえられる。

(7)、のみならず、甲第一四号証、乙第九号証に原告本人、被告代表者本人の各尋問の結果を綜合すると、原告の修正案賛成投票が政治局決定違反として問題となつた以後のことではあるが、問題の「合議制」の趣旨、内容につき、政治局において検討したところ、それは、「出席局員の全員一致」の合議の趣旨と解すべきである旨、原告を除く出席局員の全員一致の意見であつたことが認めえられる。

以上をかれこれ考え合わすと、問題の政治局決定は、確認事項にいう「合議制」に基きおるものというべく、有効に成立しているものと認めえられる。この点についての原告の主張も理由がない。

三、(政治局決定違反と制裁事由該当)

原告は、問題の政治局決定なるものは、組合決議ではないし、勿論組合規約でもない、また、政治局規定に「政治局員は政治局の決定を把握し全員結束して議会その他に反映する」とあるけれども、政治局規定なるものは組合規約ではないから、これに違反したからとて組合規約違反とはいい難く、したがつて、政治局決定違反は組合規約第六三条第一号の制裁事由とはならないと主張する。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証(組合規約)によると、組合規約第四六条に「この組合に政治局を設置する」、第四七条に「政治局の規定は別に定める」と規定されており、さらに、成立に争いのない乙第三号証(政治局規定)によると、この組合規約第四七条の規定に基き、政治局規定が定められており、その第三条第一号をみると「政治局員は政治局の決定を把握し全員結束して議会その他に反映する」と規定されているから、被告も主張するように、政治局決定に違反することは、政治局規定違反、すなはち、組合規約違反といいうる。しかも、甲第五号証に弁論の全趣旨を綜合すると、原告ら政治局員は、組合規約に基く政治局の一員として行動すべき旨、組合に対し確約していることが認めえられるから、さきにもふれたように、政治局決定に違反した組合員たる政治局員は組合規約第六三条第一号によつて組合から制裁を受けうるものといわねばならない。しかして、原告の修正案賛成投票の所為が、政治局決定に違反しおることすでに説示したとおりである以上、原告は政治局員たる組合員として、組合規約第六三条第一号該当を理由に組合から制裁を受けても、けだしやむをえないといわねばならない。この点について原告の主張も理由がない。

四、(除名権の濫用)

しかるところ、原告は、被告組合のなした原告に対する除名処分は、除名権の濫用に基くものであつて無効であると主張するから、この点につき判断する。

被告組合と前記会社との間には、労働協約第一一条によつて、ユニオン・ショップ協定が締結されおることは当事者間に争いがない。かような場合における組合員の除名は、従業員たる身分をもはく奪する重大な制裁であるから、たとえば、被除名者の行為がいちじるしく反組合的なものであつて、その者を組合から追放しなければ到底組合の団結を維持することができないというような場合、すなわち、一般社会通念に照らし、除名が真にやむをえないという場合でなければ、除名の正当な事由とはなりえないと考える。この考慮にたつて本件の情状をみると、

(1)、さきにも認定したように、政治局会議の運営については、「局構成員の全員一致」の合議制によるべきものか、あるいは、「出席局員の全員一致」の名議制で足りるかは明確には確認されていなかつたこと。

(2)、問題の政治局会議への原告の欠席ないしは本違反行為が、会社との通謀ないしは反組合的な意図に基くものと認めうる証拠はないし、いずれもその成立に争いのない甲第七、九号証、乙第一一号証の二を綜合すると、本違反行為(修正案賛成投票)は、むしろ、自己の(原告の)政治的信条ないしは信念に基きなされたものと認めえられること。

(3)、議会活動については、自由が特に尊重されなければならないことは勿論であるところ、問題の政治局決定は、町議会議員たる原告の町議会活動の拘束を内容とするものであること。

(4)、証人水谷由松、秋川治平、相川正昭の各証人に甲第一四号証、乙第九号証、および、いずれもその成立に争いのない甲第一一号証、乙第一〇号証と被告代表者本人尋問の結果とを綜合すると、本違反行為につき、違反の経緯、内容などその事情を最もよく知る政治局において、これを組合の処罰問題として取り上ぐべきかどうかにつき検討するため会議をもつたが、その会議においては、政治局自体においても会議の運営上反省すべき点があつたとなし、もし原告が反省陳謝するならば、この問題は円満に納まる空気が強かつたことが認めえられること。

(5)、しかるところ、乙第九、一〇号証と甲第七、九号証とを綜合すると、原告は陳謝しなかつたが、陳謝しなかつたのは、自己の政治的良心などに基くものであつて、反組合的な感情ないしは意図に基くものではないことがうかがわれるし、したがつて、これをとらえて、あながち、原告に改悛の情がないとはいい難いこと。

(6)、乙第一号証(組合規約)によると、組合規約第六四条には、組合員に対する制裁の種類として、除名のほか、これより軽い戒告、公開議場における陳謝、権利の一時停止、罷免が認められており、しかも、その第六五条によると、情状によつてはこれら制裁の執行を猶予しうる途が認められていること。

以上の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。以上の情状をかれこれ考え合わすと、被告が情状重しとする諸事情を考慮し、さらにはまた、原告が被告組合の選挙綱領に基き議会活動をなすべき旨確約しおり、かつ被告組合の推せんを受けて立候補、当選し、あまつさえ、甲第七号証によつて認めうるように、被告組合から選挙資金として三千円を受領しおることを考慮にいれても、本件においては、原告を除名しなければ被告組合の団結を維持することができえないものとは到底認め難く、本除名は、社会通念による限界を逸脱しており、除名権の濫用に基くもので無効であるといわなければならない。したがつて、原告は現在なお被告組合の組合員である。にもかかわらず、被告組合はこれを争つているから、爾余の争点についての判断を省略し、原告の請求は理由があるからこれを容認し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中登 大矢根武晴 草野隆一)

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